はじめに:「ECサイトはあるんだけど・・・」

先日、「FoodExpo九州」という食品関連の展示会に参加しました。目的は顧客開拓を兼ねた市場調査です。
何社かと面談して気づいたのは、「BtoB企業だが、一応BtoC向けのECサイトも持っている」という企業が意外と多いことでした。
帰社後、各社のサイトを確認してみると…
- ✅ デバイス間でレイアウトが部分的に崩れている
- ✅ 手軽に始められるプラットフォームで作っただけ
- ✅ コーポレートサイトの商品情報とECサイトが導線で繋がっていない
- ✅ 各種事情はお持ちだろうけど、取り扱い商品がかなり限定的
つまり、「ECサイトは作った。ECサイトは持っている」状態です。
そして、これは展示会で出会った企業だけの話ではないと感じました。これまでBtoB(卸売)で事業を行ってきた企業が、toC市場に踏み出そうとするとき、多くが同じような壁に直面しているのではないでしょうか。
前回の記事「実店舗企業がECで失敗する3つのパターン」では、実店舗からECへの展開における組織的な課題について書きました。今回は、BtoB企業がtoC市場に踏み出す際に直面する5つの壁と、その乗り越え方を具体的にお伝えします。
壁1: コミュニケーション言語の違い

BtoB企業は長年、取引先の担当者という「プロ」を相手にコミュニケーションを取ってきました。
- 専門用語が通じる
- スペックで性能を比較できる
- 「この規格なら使える」という判断ができる
でも、一般消費者は違います。専門知識がない。比較の基準も持っていない。だから、「私にとってどんな価値があるのか」をわかりやすく教えてほしいのです。
特に食品の場合、「美味しそう」「食べてみたい」という感情を動かすことが重要です。スペック表だけでは、その感情は生まれません。
本来どうすべきか
□ 顧客の言葉で語る
まず、ターゲットとなる消費者が日常的に使う言葉で製品を説明しましょう。社内の専門用語や業界用語は一旦忘れます。
私たちの業界ではよく言われる「中学生でも理解できるか?」という視点で見直すことが重要です。
例:水産加工品の場合
- ❌「急速冷凍技術により鮮度を保持」
- ⭕「獲れたてを船上で急速冷凍。解凍すれば、海の香りがふわっと広がります」
□ ベネフィットファーストで考える
「この機能があります」ではなく、「この機能があることで、あなたの食卓がこう変わります」という順番で語ります。スペックはその後で補足として提示します。
例:調味料の場合
- ❌「食塩相当量50%カット」
- ⭕「健康が気になるご家族にも安心。塩分控えめでも、しっかり美味しい」
□ 使用シーンとレシピを提示する
食品なら特に、「どう使うか」「どんな料理になるか」を具体的に示すことが重要です。
- ✅ 調理方法を写真付きで説明
- ✅ おすすめレシピを3〜5つ紹介
- ✅ 「こんな人におすすめ」を明記(「忙しい平日の夕食に」「お酒のおつまみに」など)
壁2: 意思決定プロセスの複雑さ

BtoBでは、購買までのプロセスが長期化し、複数の関係者が関わることが一般的です:
- ✅ 見積もり依頼 → 稟議 → 発注 → 納品 → 請求書 → 支払い
- ✅ 担当者、上司、経理部門など、複数の承認者
- ✅ 月末締め翌月払いなどの支払いサイクル
だから、「会員登録必須」「銀行振込」「最低購入金額あり」という設計になるのは自然です。
でも、toC市場では、多くの場合個人が数分で意思決定します。Amazonや楽天のように、「今すぐ」「簡単に」買えることが前提なんです。
経済産業省の調査によれば、物販系分野のEC取引のうち、約61.9%がスマートフォン経由となっています。消費者は、通勤中や休憩時間にスマホで「ポチッと」購入を決めているのです。
(出典:経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」)
この違いに適応できず、BtoB的な「じっくり確実に」アプローチを取り続けると、離脱されてしまいます。
本来どうすべきか
□ 購入までの摩擦を最小化する
- ✅ ゲスト購入を可能にする(会員登録は「あとでもできる」オプションに)
- ✅ 入力項目を必要最小限にする(氏名、住所、電話番号、メールアドレスだけ)
- ✅ 最低購入金額を撤廃する(少額でも買えるように)
- ✅ 決済方法を複数用意する(クレカ、コンビニ払い、後払い、PayPayなど)
「今すぐ買いたい」という気持ちに応えられる設計にします。
□ 送料の考え方を見直す
BtoB的な「◯万円以上で送料無料」ではなく:
- 全国一律500円(わかりやすさ重視)
- 3,000円以上で送料無料(心理的に達成しやすい金額)
- 定期購入なら送料無料(リピーター獲得)
などの選択肢を検討します。
□ 「お試し」のハードルを下げる
初めての顧客には:
- お試しセット(少量・低価格)
- 初回限定クーポン
- 送料無料キャンペーン
など、「とりあえず試してみよう」と思える仕組みを用意します。
壁3: データの見方とKPIの違い

BtoB企業では、例えばこんな指標を重視するんじゃないでしょうか?
- ✅ 「商談数」(今月何社と打ち合わせしたか)
- ✅ 「受注率」(商談から成約への転換率)
- ✅ 「顧客単価」(1社あたりの取引額)
- ✅ 「LTV」(顧客生涯価値、長期的な取引額)
営業サイクルが長く、1件あたりの取引額が大きいため、少数の優良顧客に注力する戦略が成立します。
しかし、toC市場では:
- ✅ 「アクセス数」「CVR(購入率)」「カート放棄率」など、より細かい指標が重要
- ✅ リアルタイムで変動するデータを日々チェックする必要がある
- ✅ 多数の小口顧客を相手にするため、統計的な視点が不可欠
BtoBとtoCでは、見るべき数字も、改善のサイクルも、まったく違うのです。
実際、食品業界のデータを見てみましょう。
経済産業省が2025年8月に発表した「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によれば、2024年の食品EC市場規模は3兆1,163億円と、前年比6.36%の成長を見せています。
しかし、EC化率はわずか4.52%。物販全体のEC化率9.78%と比較しても、食品業界はまだまだEC化が進んでいない分野です。
つまり、約68兆9,000億円の食品市場のうち、ECで取引されているのはわずか4.52%。95%以上が実店舗での取引という状況なのです。
逆に言えば、BtoB企業にとって、toC市場には大きなチャンスがあるということ。ただし、そのチャンスを掴むには、toCに適したデータ活用が不可欠です。
本来どうすべきか
□ toC特有の指標を学び、計測環境を整える
まずは、Google Analytics(GA4とも言われます)などのツールを正しく設定し、主要なKPIを定期的にチェックする習慣をつけます。
最低限、週に一度は以下を確認:
- ✅ ページビュー数とユーザー数(どれくらい見られているか)
- ✅ 直帰率とセッション時間(ちゃんと読まれているか)
- ✅ コンバージョン率(何%が購入しているか)
- ✅ カート放棄率(カートに入れたのに買わなかった人の割合)
この数字を確認しながら、自社のサイトの健康診断を行います。
□ 「どこから来たか」を追跡する
広告やSNSからの流入を正しく計測します。
- ✅ Google広告なら、コンバージョントラッキングを設定
- ✅ Instagram投稿なら、UTMパラメータ付きのリンクを使う
- ✅ 「どの施策が効果的か」をデータで判断
勘や経験だけでなく、数字で判断することが重要です。
□ 小さく改善を繰り返す
BtoB的な「大きな商談を取る」発想ではなく、「小さな改善を積み重ねる」発想に切り替えます。
例:
- ✅ 商品写真を変えたら購入率が1%上がった → 全商品の写真を見直す
- ✅ 「送料無料」のバナーを追加したら、平均購入金額が上がった → 目立つ位置に配置
- ✅ スマホでのカート放棄率が高い → スマホでの購入フローを改善
一つひとつは小さな変化でも、積み重ねれば大きな成果になります。
壁4: ブランドと信頼の構築方法

BtoB企業は、長年の取引実績や業界内での評判、対面での関係構築によって信頼を得てきました:
- ✅ 「〇〇ホテルに納品しています」という実績
- ✅ 展示会や商談での face to face のコミュニケーション
- ✅ 業界団体や商工会議所でのネットワーク
これらは、BtoB取引では強力な信頼の証です。
一方、toC市場では:
- ✅ 見知らぬ消費者に「この会社は信頼できる」と思ってもらう必要がある
- ✅ 最初の接点はウェブサイトであり、対面のチャンスはない
- ✅ 競合他社も多く、価格比較サイトやレビューサイトで簡単に比較される
デジタル上での信頼シグナルがなければ、どれだけ良い商品でも選ばれません。
本来どうすべきか
□ デジタル上での信頼シグナルを増やす
消費者が「この会社なら安心」と思える要素を積極的に提示します:
食品メーカーの場合:
- ✅ 生産者の顔を見せる(「私たちが作っています」という写真)
- ✅ 製造工程を公開する(工場の様子、品質管理の取り組み)
- ✅ 受賞歴や認証を明示する(◯◯賞受賞、有機JAS認証など)
- ✅ 取引先の実績(「◯◯ホテルでも使われています」)
- ✅ お客様の声(レビュー、SNSでの反応)
□ 商品写真と説明文にこだわる
「美味しそう」「食べてみたい」と思わせるには:
- ✅ プロのカメラマンに撮影を依頼(または最低限、自然光で丁寧に撮影)
- ✅ シズル感を出す(湯気、断面、盛り付けなど)
- ✅ 説明文でストーリーを語る(どんな思いで作っているか、どんな味わいか)
手軽に始められるプラットフォームの利用であっても、写真と文章次第で印象は大きく変わります。
壁5: カスタマーサポートのスケール

BtoBでは、少数の顧客に対して手厚いサポートを提供することが一般的です:
- ✅ 専任の担当者がつく
- ✅ 電話やメールで個別対応
- ✅ 「この件は〇〇さんに聞けばわかる」という関係性
これは、顧客数が限られているからこそ可能なサービスです。
しかし、toC市場では:
- ✅ 顧客数が数十倍、数百倍に増える
- ✅ すべての問い合わせに個別対応していては、コストが膨らむ
- ✅ 対応スピードが遅いと、すぐに競合に流れる
スケーラブル(拡張可能)なサポート体制が必要なのです。
本来どうすべきか
□ FAQページを充実させる
よくある質問をFAQとして整備し、検索しやすくします。
食品ECでよくある質問:
- ✅ 賞味期限はどれくらいですか?
- ✅ 配送にどれくらいかかりますか?
- ✅ ギフト包装はできますか?
- ✅ アレルギー表示はどこで確認できますか?
- ✅ 返品・交換はできますか?
これらを商品ページやFAQページに明記することで、問い合わせ自体を減らせます。
□ 商品ページに情報を充実させる
「問い合わせないとわからない」情報を減らします:
- ✅ 賞味期限を明記(「製造日から◯日」ではなく、「お届け時点で残り◯日以上」と具体的に)
- ✅ 配送日数を明記(「ご注文から◯日でお届け」)
- ✅ アレルギー表示を見やすく(7品目だけでなく、27品目も)
- ✅ 保存方法・調理方法を詳しく(「冷蔵保存」だけでなく、「10℃以下で保存」など)
前回の記事でも触れたように、情報の透明性が信頼につながります。
□ 自動返信とテンプレート対応を活用する
- ✅ 問い合わせ受付の自動返信(「24時間以内に返信します」と明記)
- ✅ よくある質問へのテンプレート回答を用意
- ✅ チャットボットで一次対応(簡単な質問は自動で回答)
ただし、機械的すぎる対応は逆効果です。複雑な質問や感情的な対応が必要なケースでは、必ず人間が丁寧に対応します。
まとめ: BtoBの強みを活かしながら、toCの作法を学ぶ

BtoBを主においてきた企業のBtoC向けのECサイトは「作っただけ」で終わっているケースも感じられました。
なぜか?
BtoBのやり方をそのまま持ち込んでしまっているからです。
- ✅ BtoB的な専門用語 → toC的なわかりやすい言葉へ
- ✅ BtoB的な購買フロー → toC的な簡単・即決フローへ
- ✅ BtoB的な営業指標 → toC的なデジタル指標へ
- ✅ BtoB的な対面信頼 → toC的なデジタル信頼へ
- ✅ BtoB的な個別サポート → toC的なスケーラブルサポートへ
この転換ができれば、BtoBで培った強み(品質、実績、専門知識)は、toC市場でも大きな武器になります。
数字で見る、toC市場のポテンシャル
改めて、市場データを確認しましょう。
経済産業省の「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によれば:
- ✅ 食品EC市場規模:3兆1,163億円(2024年、前年比6.36%増)
- ✅ 食品のEC化率:わずか4.52%
- ✅ 食品市場全体:約68兆9,000億円
つまり、95%以上がまだ実店舗での取引。逆に言えば、これだけの伸びしろがあるということです。
特に食品分野は、すべての物販カテゴリーの中で最大の市場規模を持ちながら、EC化率が最も低い分野の一つ。BtoB企業がtoC市場に参入する余地は、まだまだ大きいのです。
5つの壁を乗り越えるために
- ✅ 消費者の言葉で語る – 専門用語を捨て、ベネフィットとストーリーを伝える
- ✅ 購入までの摩擦を最小化する – ゲスト購入、簡単決済、お試しセット
- ✅ データドリブンで改善を重ねる – toC特有の指標を学び、小さく改善を繰り返す
- ✅ デジタル上で信頼を構築する – 写真、レビュー、SNS、透明性ある情報開示
- ✅ スケーラブルなサポート体制を整える – FAQ充実、情報の事前開示、適切な自動化
「作っただけ」から抜け出すために
前回の記事「実店舗企業がECで失敗する3つのパターン」でも強調しましたが、組織として方針を明確にすることが何より重要です。
- ✅ EC事業にどれだけリソースを割くのか?
- ✅ 担当者は専任か、兼任か?
- ✅ BtoB事業との関係性は?(協力?棲み分け?)
これらを最初に決めてから、小さく始めて、データを見ながら改善を繰り返していく。
今回の記事が、「ECサイトは持っているけど、成果が出ていない」と感じているBtoB企業の方の、次の一歩のヒントになれば幸いです。
BtoB企業のtoC展開、ECサイトの改善について、一緒に考えてみませんか?
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