実店舗を運営している企業がECサイトを始めるとき、あるいはすでに始めているけれどいまひとつ手応えがないとき、こんな前提を一度確認してみてほしいと思います。
「実店舗でやっていることを、そのままネットショップでもやろうとしていないか?」
目的は同じ。でも手段は違う。
実店舗でもオンラインストアでも、やろうとしていることの本質は同じです。
商品の魅力を伝える。選びやすい環境を整える。買いやすい状態をつくる。
この3つは、チャネルが変わっても変わらない。ただし、それをどうやって実現するかは、実店舗とECサイトでかなり異なります。
実店舗では「当たり前」のことが、実はすごく機能している
実店舗における購買体験を、少し丁寧に観察してみましょう。
お客さんは店に入ると、視界に商品が飛び込んできます。手に取る。触感や重さや匂いを感じる。パッケージに書かれた文字を読む。五感をフルに使って商品を確かめながら、「これにしようか」と検討します。
また、自分以外のお客さんの存在も影響します。人だかりができていれば気になって近づく。隣で同じ棚を見ていた人が別の商品を手に取れば、「そっちがいいのかな」と思う。接客を受けることもある。その場の空気や他の人の動きが、購買の意思決定に自然に絡んでいます。
こうした体験は、実店舗では「当たり前」に起きていることです。意識してデザインしているというより、フィジカルな環境がそれを自然につくり出している。
気づいていなかった事例:商品情報という「壁」
以前、複数の実店舗を持つ企業がネットショップの立ち上げに取り組んだケースがありました。
オンラインストアには当然、商品情報が必要です。品番、スペック、特徴、検索されるためのキーワード。それらを登録しようとしたとき、担当者は困りました。商品情報をデータとして持っていなかったのです。
驚くように聞こえるかもしれません。ただ、実情を考えると、これはとても自然なことです。
たとえば、単三乾電池の8本入りを実店舗で売るとして、どんな商品情報が必要でしょうか。実物を手に取れば、単三であること、乾電池であること、8本入りであることは一目でわかります。「長持ち」という特徴もパッケージに書いてある。商品名はレジで通ればいいので、社内では略称で管理されていたりします。

実店舗では、それで十分機能していた。だから、データとして整備する必要がなかったのです。
ところがECサイトでは、ユーザーは商品を手に取れません。テキストや画像など、画面に表示された情報だけで商品を判断します。「単三」という情報がなければ検索にも引っかからない。特徴の記載がなければ、興味を持ってもらえない。
ユーザーが商品を手にするのは、購入前なのか、購入後なのか。
実店舗とネットショップの違いを一言で表すとすれば、これかもしれません。
だから、ECサイトの「役割」を整理することが重要になる
実店舗でできていることをそのままオンラインストアに持ち込もうとすると、どこかで壁にぶつかります。それは「やり方の問題」ではなく、「チャネルの構造が違う」からです。
逆に言えば、実店舗ではできないことをECサイトでやる、という発想も生まれます。たとえば、詳細な商品スペックの掲載、レビューや使用例の蓄積、時間や場所を問わない購買体験の提供。これらは実店舗が苦手とするところです。
こうして「実店舗とECサイトのそれぞれの役割」を整理していくと、自ずとKPIの置き方やPDCAのサイクルも変わってきます。「アクセス数が増えない」と悩む前に、そもそもそのネットショップに期待している役割は何か、を問い直すことが先です。
まとめ
実店舗とECサイト、目的は同じです。でも、手段も構造も、お客さんの体験も、かなり違います。
実店舗でうまくいっているやり方がオンラインストアでもうまくいくとは限らない。そして、その違いは「当たり前すぎて気づいていない」ことの中に潜んでいることが多い。
まず、自分たちの実店舗が「どうやって商品の魅力を伝え、選ばせ、買わせているか」を整理してみてください。その整理が、ECサイトの設計や改善の出発点になります。