
実店舗では当たり前にやっていること
実店舗の販売スタッフなら、誰もが自然にやっていることがあります。
例えば、テレビでDIY特集が放送されると知れば、関連する電動ドライバーや工具を目立つ場所に配置する。
例えば、雑誌の年末ベストバイ特集で取り上げられた商品があれば、すぐに該当商品を前面に出す。
例えば、今日の気候が暑ければ、冷感グッズやBBQ用品を入口近くに並べる。
こうした対応は、実店舗では「接客の基本」ではないでしょうか?お客様に「今日は暑いですねぇ」と声をかけるのと同じように、店舗全体が世間の動きに反応している。それが、お客様にとって「今、必要なもの」を提案することにつながっています。
ウェブサイトではなぜできていないのか
ところが、ECサイトやウェブサイトになると、この当たり前の対応ができていないことが多いのです。
多くのECサイトは、商品分類やブランド、価格帯といった「ガチガチの商品カテゴリー」だけで構成されています。もちろん、こうした基本的なカテゴリーは必要です。でも、それだけでは実店舗の「固定的な売り場」しかない状態と同じです。
実店舗には、工具売り場や園芸売り場といった動かせない売り場の他に、入口の特設コーナー、もっと言えばパッとおいたワゴンの中に突貫で作ったような売り場といった「柔軟に変えられる売り場」があります。でも意外と、こういう「パッとおいたワゴンの中に突貫で作ったような売り場」はECではなかなか用意されていなかったりします。
なぜでしょうか?
私が感じるのは、ECサイトが「自社の商品情報」だけを見ていて、外の世界で何が起きているかが見えていないということです。
テレビでDIY特集が放送されても、雑誌でベストバイが特集されても、それは自分たちで起こした企画ではないから、サイトは何も変わらない。実店舗なら、販売スタッフが「これは話題になりそうだ」と察知して売り場を変えるのに、ECサイトではそれができていない。
「緩いカテゴリー」という解決策
では、どうすればいいのか。
私が提案するのは、「緩いカテゴリー」をトップページに作ることです。
例えば:
- ✅「今の気候におすすめ」
- ✅「最近話題の商品」
- ✅「雑誌○○で紹介されました」
- ✅「週末のDIYに」
こうしたカテゴリーは、商品の本質的な分類ではありません。いや、分類とも言えないくらいの「おまとめ」くらいのものです。
でも、お客様が「今、求めているもの」に応える切り口です。
実店舗でいえば、入口の特設コーナーやレジ横に置かれた手書きのポップでつまれたワゴンに相当します。
商品そのものは園芸売り場や工具売り場にあるものと同じでも、見せ方が違う。お客様の「今」に寄り添った見せ方になっている。
重要なのは、世間の動きを見て、話題があったときに素早く対応することじゃないでしょうか?接客とはそういうものじゃないかと思うんです。
例えば、ECサイトで電動ドライバーを販売しているとします。テレビでDIYの特集が放送されることが予告でわかれば、DIY関連商品をまとめた特集の中に電動ドライバーを含める投稿をする。これは、実店舗では当たり前にやっている施策です。
100%の対応ができなかったとしても、話題を目にした際に「便乗する」。相手(外部の動き)はコントロールできないので、その状況に出会ったときに小さく対応できる環境を作っておくことが大切です。
ECだからこそできること
ECサイトには、実店舗にはない強みもあります。それは、すぐにカテゴライズできることです。カテゴライズというと畏まった感じになりますが、要は「1箇所に集めることが比較的簡単」ということです。
1箇所に集めると言ってもその枠組みを作っておかないといけないと感じるかもしれません。そういう時は、そういう緩い名称の枠組みを作っておけばいいのです。
ガチガチのカテゴリー分けをしてしまうから汎用性がないのです。「今の気候に」とか「最近話題の」といった少し緩いカテゴリーを組めばいい。言い方一つで印象は変わります。
世間の動きを見て、その緩いカテゴリーに商品を入れるだけで、ひとまずカテゴライズができる。これは、ECサイトならではの機動性です。
ECサイトも「店舗」である
ここまでお話ししてきて、最も伝えたいことは何かというと、ECサイトも店舗であるという考え方です。
来店してくれるお客様がいて、商品があって、それが店舗です。ECなのに、多くの場合、この当たり前の視点が抜け落ちている気がします。買いやすさは重要です。買いやすさの境地はアマゾンに代表されるECサイトでしょう。「買いやすい」は重要な要素ではありますが、お店を選んだり、またその店を使ったり、・・というのは「買いやすい」だけではないはずです。
実店舗で考えたら、「今日は暑いですねぇ」という感じで接客するでしょう?具体的にそう言えというわけではないけれど、そういう気持ちが大切なのです。
データに合わせて変えることも大切です。アクセス解析を見て、どのページが見られているか、どんなキーワードで検索されているかを把握する。それはもちろん重要です。
でも、それだけでは不十分です。世間の動きに合わせて変えていくことも、同じくらい大事なのです。
販売スタッフ的なマインドセットの必要性
では、誰がこうした対応をするのか。
EC担当者の役割を考えてみると、現状では「バックヤードスタッフ」や「店長」のような位置づけが多い気がします。在庫管理、受注処理、商品登録、売上管理、広告運用、数字の分析。もちろん、これらの業務も重要です。
でも、実店舗でいう「販売スタッフ」のような位置づけの人が必要なのではないでしょうか。
販売スタッフのように、データだけではなく世間やお客様を向いたスタッフ。店頭に立って、お客さんの表情や動きを見る感覚。「今日は○○を探している人が多いな」という気づき。世間話から「週末BBQする人多そうだな」と察知する力。そして、すぐに手書きでいいからポップ作ってみようとする感覚。接客してみようという感覚。
こうした感覚を持った人が、どうもこれからのECサイトには必要な気がしてならないのです。
そのために必要なのは、気軽に発信できる場所を作っておくことです。Xでもいいし、ブログでもいい。ある程度のガイドラインは必要ですが、自由に発信ができる場所があれば、世間の動きに素早く反応することができます。
まとめ:外を見る力
コミュニケーションデザインの視点で考えると、情報アーキテクチャの基本構造には「ユーザー」「コンテンツ」「コンテキスト」の3要素があります。
多くのウェブサイトは、「ユーザー」(ペルソナやカスタマージャーニー)と「コンテンツ」(商品情報やコンテンツ)は考えているのですが、「コンテキスト」が抜け落ちています。
検索している時間帯、何がきっかけなのか、どういう状況なのか。こうした外部の文脈を想像し、それに対応することが、本当の意味での「伝わるウェブサイト」につながります。
実店舗では当たり前にやっている「外を見る力」。それを、ECサイトやウェブサイトにも取り入れていきませんか?
補足:コーポレートサイトへの応用
この考え方は、ECサイトに限りません。コーポレートサイトでも、業界ニュース、法改正、展示会といった外部の動きに対応することが重要です。自社の情報だけでなく、世間で何が起きているかを見て、それに関連した情報を発信する。それが、訪問者にとって「今、知りたいこと」を提供することにつながります。
共通する本質は、外を見る、柔軟に対応することです。

著者:稲本浩介
コミュニケーション設計所代表/情報アーキテクト
「わかりやすく伝えるにはどうしたらいいか?」を常に考える福岡の情報アーキテクト(IA)。前職では主にWebサイト制作にディレクターやエンジニアとして関わり、ホームセンターや老舗菓子メーカーのEC事業の構築および運用にゼロから携わる
。その活動は、ウェブサイトの枠に限定せず、動画やイベント実施などコミュニケーションという視点でのわかりやすさを追求。大学や社会人講座、企業における講演経験もあり多方面にて活動中。
▶︎ X(Twitter): @sevenina



